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3Dプリンタで機能部品を作るとき、悩ましい組み合わせがあります。小さい部品ほど冷却ファンを強く回さないと形が崩れる。でも冷却を強くすると、層と層のくっつきが弱くなる銘柄がある——というものです。

前回の試験で、冷却ファンを30%から100%に上げると7銘柄の平均が8.0%落ちることが分かりました。そこで今回は、チャンバー(プリンタの中の空間)を閉めたらどうなるかを測りました。

結論から言うと、強度に行き着く道は2つありました。チャンバーを開放したまま冷却を弱くしても、チャンバーを閉めて冷却を強くしても、平均で見るとほぼ同じところに着きます。ただし材料によって向き不向きが正反対でした。

結論:強度に行き着く道は2つある

7銘柄の平均(積層方向の破断荷重)を、3つの条件で比べたものです。

冷却ファンとチャンバーの4つの組み合わせ。測ったのは3つ
条件7銘柄平均ひとつ前からの変化
チャンバー開放 × 冷却30%387N
チャンバー開放 × 冷却100%356N−8.0%
チャンバー密閉 × 冷却100%384N+7.9%

冷却を強めると8%落ちますが、扉と天板を閉じるとほぼ元の水準に戻ります。開放で冷却を弱くする(387N)のと、密閉で冷却を強くする(384N)のは、平均では0.7%しか違いません。

つまり、扉のないプリンタを使っていても、冷却を弱くすれば同じところまで行けるということです。逆に閉じられるプリンタなら、冷却を強く回したまま強度を確保できます。

なお、「チャンバー密閉 × 冷却30%」は測っていません。4つの組み合わせのうち3つだけの結果です。

材料によって、答えが正反対になる

ここが今回いちばん伝えたいところです。「開放×冷却30%」と「密閉×冷却100%」のどちらが強いかは、銘柄によって逆になりました。

同じ試験でも、銘柄によって有利な条件が逆になる
銘柄開放×冷却30%密閉×冷却100%相性
Bambu355.8N432.9N+21.7%密閉が有利
SUNLU383.1N421.4N+10.0%密閉が有利
QIDI-Tough392.3N404.3N+3.1%ほぼ同じ
Tinmorry388.9N386.3N−0.7%ほぼ同じ
PRINSFIL392.5N366.6N−6.6%開放が有利
ELEGOO378.0N348.9N−7.7%開放が有利
CC3D416.3N328.9N−21.0%開放が有利

BambuとCC3Dは完全に正反対です。Bambuは密閉で+21.7%、CC3Dは開放で−21.0%。同じ試験なのに、向きが逆になります。

QIDIとTinmorryは、どちらの条件でもほとんど変わりません。つまり自分のプリンタに合う材料が違う、ということです。

チャンバー密閉45℃での結果(7銘柄)

チャンバー密閉45℃での7銘柄。棒が平均、点が1本ごとの実測
順位銘柄平均破断荷重本数ばらつき1kg価格円/N
1Bambu Lab PETG Basic432.9N54.9%¥2,9006.70
2SUNLU PETG421.4N58.2%¥1,6994.03
3QIDI PETG-Tough404.3N52.2%¥3,6999.15
4Tinmorry PETG386.3N524.1%¥1,5994.14
5PRINSFIL PETG366.6N515.5%¥1,8995.18
6ELEGOO PETG348.9N56.8%¥1,5814.53
7CC3D 標準PETG328.9N419.5%¥1,3994.25

「円/N」は1kgの購入価格を平均破断荷重で割った独自の目安です。一般的な材料指標ではなく、造形失敗率・寸法精度・表面品質は含んでいません。

試験条件

プリンタQIDI Q2
ノズル温度250℃
ベッド温度80℃(Textured PEI Plate)
印刷速度30mm/s
層厚 / インフィル0.15mm / 100%(ジグザグ)
2周
補助ファン100%(3条件とも同じ)
試験方向積層方向(Z直立・層を引きはがす向き)
試験片断面10.0mm²(3.5mm×3.0mm・四隅0.5mm面取り)
その他最初の3層はファンOFF(ベッドからの剥離防止)

チャンバー開放は、天板と前の扉を全開にした状態です。扉のないプリンタ(Bambu Lab A1やA1 miniなど)を擬似的に再現しています。チャンバー密閉は天板と前扉を閉じ、チャンバー設定を45℃にしたものです(庫内の実測は52.8℃)。

比較元は、チャンバー開放・冷却30%でのPETG7銘柄比較と、チャンバー開放・冷却100%での比較です。各条件の試験本数と生データもリンク先で確認できます。

どこまで言えるのか

個人で測ったデータです。専門機関の試験ではありません。各銘柄1スプールずつ、この印刷条件での比較で、メーカー全体の性能を示すものではありません。

平均値の差が偶然かどうかは統計の計算にかけました(Welchのt検定・Holm補正・有意水準5%)。扉を閉めてはっきり強くなったと言えるのは、BambuとQIDIの2銘柄だけです。残りの銘柄は、平均こそ上がっていますが判断がつきません。

開放から密閉へ変えたときの変化率。はっきり強くなったのは2銘柄

ここは間違えやすいので書いておきます。「判断がつかない」は「変わらなかった」ではありません。この本数では決められない、という意味です。

また、5本を同じ印刷ジョブで作っているため、厳密には独立したn=5とは扱いにくい点にもご注意ください。

ばらつきは増えました

7銘柄の平均で見ると、ばらつきは7%から12%へ増えました。特にTinmorryは5本中4本が387〜462Nなのに、1本だけ226Nでした。フィラメントのムラ、印刷時の内部欠陥、試験片の寸法差。どれもあり得ますが、原因は特定できていません。

一方でQIDI・ELEGOO・Bambuの3銘柄は、逆にばらつきが小さくなっています。強くはなったけれど、安定したとは言えないというのが正直なところです。

ばらつき(変動係数)の変化。増えた銘柄と減った銘柄がある

私はどう選んでいるか

何を優先するかで、選ぶ銘柄は変わる

ここからは私の場合の話です。私は基本、扉を閉めて使っています。造形が乱れたら、速度を落とすか、扉を開けて庫内の温度を下げます。材料はQIDIのPETG-Toughで、冷却ファンは常に100%です。

売る部品では、いちばん強いことよりも、条件を変えても強度が大きく崩れないことを重視しています。強度が高くても造形が汚ければ商品になりません。だからモデルごとに設定を変えます。そうやって条件を動かすたびに強度が変わる材料は、私には使いにくいんです。

それと、扉を開けたままだと室温に左右されます。夏と冬でも変わる。同じ条件で印刷したいので、閉めて使っています。

その基準で選ぶとQIDIになりますが、QIDIは7銘柄で最も高く(¥3,699)、3回測って一度も1位がありません。あくまで「条件を動かしても落ちにくい」という一点での選択です。

基準が違えば、答えも変わります

こういう人はこの銘柄根拠
密閉できて、冷却も強く回せるBambu Lab PETG Basic432.9Nで今回1位
価格と強度の釣り合いで選ぶSUNLU PETG4.03円/Nで7銘柄最安
条件を頻繁に動かすQIDI PETG-Tough3条件で376〜404N・ばらつき2.2%
扉のないプリンタで冷却を弱くできるCC3D 標準PETG416.3Nで最強かつ¥1,399で最安

生データ(すべてN単位)

チャンバー密閉 × 冷却100%(45℃設定)

QIDI-Tough  391.9 / 411.1 / 408.7 / 412.0 / 397.6
ELEGOO      312.1 / 339.3 / 359.3 / 373.1 / 360.7
Tinmorry    226.4 / 430.5 / 387.5 / 425.2 / 462.1
CC3D        342.7 / 387.4 / 347.8 / 237.6
SUNLU       459.8 / 365.7 / 432.2 / 430.5 / 419.0
Bambu       406.2 / 426.4 / 442.2 / 463.0 / 426.9
PRINSFIL    324.3 / 293.9 / 430.2 / 377.1 / 407.7

チャンバー開放 × 冷却100%

QIDI     349.2/362.8/394.7/360.9/386.4 / 395.8/382.0/366.9/367.3/389.8
SUNLU    387.4/427.0/409.1/404.8/407.2 / 357.1/411.4/421.1/415.1/438.8
Bambu    395.3/369.8/413.5/391.0 / 396.4/361.7/348.3/385.7/360.0
Tinmorry 404.4/385.3/333.4/348.2/333.4
PRINSFIL 394.3/349.2/309.8/310.7/303.1
CC3D     337.1/314.7/330.1 / 326.7/338.1/328.5/328.0
ELEGOO   281.1/351.1/290.1/316.3/284.4

チャンバー開放 × 冷却30%

CC3D     364.3/454.8/441.3/372.9/448.0
PRINSFIL 353.4/384.7/400.9/423.9/399.5
QIDI     378.1/381.3/391.2/404.9/406.1
Tinmorry 424.1/379.4/344.5/407.8
SUNLU    363.5/429.2/335.0/388.0/399.6
ELEGOO   390.8/366.3/382.6/369.6/380.7
Bambu    397.6/366.9/290.6/381.9/342.1

今回使ったフィラメント

今回の試験(チャンバー密閉45℃・冷却100%)での結果順に並べています。カッコ内は「開放×冷却30%」との比較です。

  • Bambu Lab PETG Basic:432.9N / CV4.9% / ¥2,900
    密閉でいちばん伸びた(+21.7%)
  • SUNLU PETG:421.4N / CV8.2% / ¥1,699
    強さと価格のバランスがいい
  • QIDI PETG-Tough:404.3N / CV2.2% / ¥3,699
    ばらつきが最小。安定重視ならこれ
  • TINMORRY PETG:386.3N / CV24.1% / ¥1,599
    平均は高いが1本だけ大きく外れた
  • PRINSFIL PETG:366.6N / CV15.5% / ¥1,899
    開放×冷却弱めのほうが有利
  • ELEGOO PETG:348.9N / CV6.8% / ¥1,581
    開放×冷却弱めのほうが有利
  • CC3D 標準PETG:328.9N / CV19.5% / ¥1,399
    開放×冷却30%なら7銘柄で1位(416.3N)

価格は2026年8月〜9月時点の実購入額で、セールや販売条件により変わります。この順位はあくまで「チャンバーを閉めて冷却を強く回した場合」のものです。扉のないプリンタをお使いなら、順位は上の表のとおり入れ替わります。

まとめ

  • 冷却を30%→100%に上げると、7銘柄平均が8.0%低下
  • そこから扉と天板を閉じると7.9%回復し、ほぼ元の水準へ
  • 開放×冷却30%(387N)と密閉×冷却100%(384N)はほぼ同じ。強度に行き着く道は2つある
  • ただし材料で向き不向きが正反対。Bambuは密閉で+21.7%、CC3Dは開放で−21.0%
  • 統計で明確に言えるのはBambuとQIDIの2銘柄だけ
  • ばらつきは7%→12%に増加。強くはなったが安定したとは言えない

PETG以外も含めた材料選びは、20種類以上のフィラメントを実測した総合記事にまとめています。冷却ファン30%と100%の比較は前回の記事をご覧ください。

おかしな点があればコメントで教えてください。次の試験に反映します。

ABOUT ME
つくはる
つくはる。地方在住のロードバイク乗り&3Dプリンタ愛好家。40歳手前からロードバイクに出会い、メタボ体型から脱却して以来ロードバイク歴15年以上。現在は「3Dフィット工房」の屋号で、3Dプリンタを使ったロードバイク関連オリジナル部品の設計・製造・販売を行っています。ブログでは実際に使った機材のレビューや自作パーツの開発ストーリー、副業・節約のリアルを等身大でお届けします。