同じ85A TPUでも、押し心地はどこまで変わる? 4条件の圧縮比較と実用品への応用

TPUの「85A」は材料の硬さを選ぶ目安になります。でも、印刷した部品の押し心地まで、この数字だけで決まるわけではありません。前回は同じ材料で作った4個の試験片を押し比べ、今回はその違いを自転車用パーツ「FLEXLOCK」の設計と照らし合わせました。
前回の動画:材料は変えず、外層とインフィルを変える
使ったのはSiraya Tech Flex TPU 85A。外層あり・なしのそれぞれで、インフィル密度を20%と40%にした計4条件です。この試験の「外層」は、側面の壁と上下のふたを合わせたもの。側面の壁だけを変えた試験ではありません。

シリンダは試験片が潰れ切るまで押したのではなく、途中で止めました。残ったすき間から縮み量を求め、メーターの記録値(ピーク)をその縮み量で割っています。横の同じ側から押した例がこちらです。
| 密度 | 外層 | 縮み量 | 記録値 | 縮み1mmあたり |
|---|---|---|---|---|
| 40% | あり | 4.1mm | 434N | 106N/mm |
| 40% | なし | 4.2mm | 258N | 62N/mm |
| 20% | あり | 約2mm | 114N | 58N/mm |
| 20% | なし | 7.6mm | 49N | 6.5N/mm |

40%ではどちらも約4mm縮んだところで、外層ありのほうが約1.7倍の値でした。20%では差がさらに大きく見えますが、約2mmと7.6mmでは押し込んだ深さが違います。簡易試験なので、ここは「外層なしの20%は、横から押すとかなり沈みやすかった」と見てください。材料そのものの硬度や、どの深さでも一定のばね定数を測ったわけではありません。
もう一つ面白かったのは、同じ試験片でも、横からより積層方向に上から押したほうが抵抗が大きかったことです。「手で押したときは柔らかかったのに、取り付けたら硬い」を避けるには、実際に力がかかる向きで押してみるのがよさそうです。動画:4条件を指で押した様子と方向別の比較グラフ
今回の動画:全部を柔らかくすると、アームが戻らない
FLEXLOCKでは、フレームに当たるクッションは沈んでほしい。一方、アームには挟んで戻る力が必要です。試験片では、横から押したとき、同じ85Aでも外層の有無で沈み方が変わりました。実物ではその違いをどこに使うかがポイントです。クッションにはたわむ格子を、アームには挟んで戻るための外壁を残し、部位ごとに構造を分けています。

| 部位 | 外壁 | 上面・下面 | インフィル |
|---|---|---|---|
| アーム | 5周 | 各0層 | ジグザグ30% |
| クッション | 0周 | 各0層 | ジャイロイド25% |
25%は前回の20%と40%の試験から計算した「最適値」ではありません。実物を印刷し、パターンと密度を変えて押した中で、今回のクッションにいちばん合うと感じた設定です。
再現するポイント:「2ボディ → 1つのSTL → 2パーツ」

- Fusionでアームとクッションを別ボディにしておき、位置関係を保ったまま一つのSTLに書き出します。先に一つのボディに結合しないのがポイントです。
- PrusaSlicerでSTLを読み込み、「分割」→「パーツ」を選びます。別々のオブジェクトとしてプレートに並べるのではなく、一つのオブジェクトの中で設定を分けます。
- 全体にアーム用の設定を入れます。次にクッションのパーツだけを選び、外壁とインフィルの個別設定を追加。外壁0周・ジャイロイド25%に上書きします。
- 印刷前にプレビューで外周の線を見ます。アームには輪郭が残り、クッションでは格子が外側まで見えていれば、狙った設定です。

この考え方は、自転車用品に限りません。たとえばクリップなら、当たり面には沈んでほしいけれど、腕には戻ってほしい。まず「どの場所が、どの向きに動いてほしいか」を決めてから外壁と内部構造を選ぶと、単に密度を上げ下げするより設計の狙いを絞れます。
材料選びから知りたい方は85A・95Aの実物比較記事へ。今回の設計を使いたい方はこちら:FLEXLOCKの印刷データ(有料)/完成品と適合サイズ。いずれも私が設計した商品です。

