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3Dプリンタで試作したロードバイク用TPUインソール4枚

ロードバイクで1時間ほど走ると、右足の裏が痛くなる。

シューズを買い替えても、クリートの位置を何度調整しても、この症状は消えなかった。ペダリングの後半、決まって右足の母指球のあたりに、じわじわと圧迫感が溜まってくる。

自宅には3Dプリンタが8台ある。ロードバイク用のパーツを設計・製造して販売しているので、TPU(軟質樹脂)も日常的に扱っている。ならばインソールを自分で作ってしまえばいい ── そう考えて作り始めた。

結果から言うと、4枚作って解決した。ただし効いたのは、作り始める前に自分が想定していたのとは違うところだった。

動画で先に見る|4枚の試作を4分49秒にまとめました

設計、印刷、実走テスト、フォースゲージでの比較までを長尺動画にまとめました。2026年8月2日18:00公開予定です。

この記事で分かること

  • 足裏の痛みが改善したインフィル構成
  • TPU95Aと85Aを二層にする狙い
  • PrusaSlicerの設定値とM600の入れ方
  • V1〜V4を実際に履き比べた結果
  • 自作前に知っておきたい失敗点

結論:効いたのは「形」ではなく「足に当たる面」だった

先に結論を書いておく。

枚数変えたもの結果
V1TPU95A/ジャイロイド40%均一痛みは出ない。ただし硬い。土踏まずが効いていない
V2インフィルを40→30→20%の3段階に1時間走っても痛くならなくなった。ただし足裏に格子のザラつき
V3TPU95A+85Aの二層構造。上面を30%にザラつきが消えた。純正と比べても良い出来
V4粘土で足型を取り3Dスキャンして形をカスタム悪くはない。ただしV3のほうがしっくり来た

当初は「自分の足の形にぴったり合わせれば解決するはずだ」と考えていた。だから最終的にV4で足型スキャンまでやった。

ところが実際に効いたのは、足が触れる面の材料と密度のほうだった。形をカスタムしたV4より、材料を工夫したV3のほうが良かったのだ。

以下、4枚それぞれで何をして、何が起きたのかを順に書いていく。スライサーの設定値はすべて公開するので、同じことをやってみたい人は参考にしてほしい。


そもそも、なぜロードバイクで足裏が痛くなるのか

私が使っているロードバイクシューズは、ソールにカーボンを使っている。ペダルへ力を逃さず伝えるための構造なので、ほとんど変形しない。

これは推進力の面では正しい設計だが、足の裏から見ると別の話になる。変形しない板の上に、体重とペダリングの力が集中することになるからだ。ランニングシューズのように、ソールが潰れて荷重を分散してくれることはない。

さらに、私が使っているシューズの純正インソールを抜いて見ると、薄い樹脂の板のようなものだった。少なくとも私の足では、土踏まずを十分に支えている感覚がなかった。そこで、母指球とかかとに荷重が集中しているのではないかと考えた。

ロードバイクシューズ付属の純正インソール

ならば、土踏まずまで含めて面で支えるインソールを作れば、荷重が分散して痛みは減るのではないか。これが出発点だった。


V1:まず作ってみた(TPU95A・ジャイロイド40%)

最初の1枚は、純正インソールを撮影して輪郭をトレースし、そこから3Dモデルを起こした。

  • 厚み:5mm
  • 土踏まず部分:目分量で盛り上げ
  • 素材:TPU 95A
  • インフィル:ジャイロイド 40%(全体均一)
  • 印刷:Prusa MK4S/4時間24分

TPUの硬度は数字が小さいほど柔らかい。95Aは軟質樹脂の中では硬めで、パーツの製造にもよく使う扱いやすい硬さだ。

シューズには問題なく収まった。そして実際に走ってみた結果は、こうだった。

  • 足の痛みは出なかった ── 最低ラインはクリア
  • ただし少し硬い
  • そして土踏まずが足に当たっている感じがしない

3つ目が特に引っかかった。アーチを支えるつもりで盛り上げたのに、「全体で支えられている」という感覚が薄い。フラットな板の上に乗っているのとあまり変わらないのだ。

改善の方向は2つ考えられた。硬さを調整するか、形を調整するか。まずは変数の少ない硬さから手を付けることにした。


V2:インフィルを3段階に変えたら、痛みが消えた

2枚目は形(STL)はまったく同じまま、インフィルの密度だけを変えた

PrusaSlicerでは、モデルの一部だけ設定を変える「モディファイア」が使える。これを使って、厚み方向に3段階の密度を設定した。

インフィル密度
底側40%
中間30%
足が当たる上面20%

下は硬く、上に行くほど柔らかくなる構造だ。素材はV1と同じTPU 95Aのまま、密度だけで硬さの勾配を作っている。

これで走った結果が、はっきりしていた。

1時間走っても、足の裏が痛くならなくなった。

当初の悩みは、この2枚目の時点で解決している。純正インソールと比べても明らかに良い。さらに副次的な効果として、通気性が非常に良かった。基本は外壁と上下面のソリッド層をゼロにし、最初の2層だけ外壁を2本にしている。インフィルの格子を露出させつつ、印刷性も確保でき、夏場のライドではこれが快適だった。

ただし、ひとつだけ気になることが残った。

足の裏に、格子のザラつきを感じる。

上面のインフィルが20%と粗いので、格子の目が足裏に当たっているのが分かる。痛いわけではないが、意識すると気になる。次はここを潰すことにした。


V3:TPUを2種類使う ── これが本命だった

3枚目では、材料そのものを変えた。硬さの違うTPUを2種類、1枚の中に入れるという方法だ。

二層構造の狙い

市販の高機能インソール(Solestar、Sidas、Superfeetなど)を調べると、共通する考え方があった。下は硬く支え、上は柔らかく当たるという二層・多層構造だ。カーボン板やフォームの密度差で実現している。

これを3Dプリンタで再現するなら、TPUの硬度違いを積層方向に切り替えればいい。

位置材料インフィル役割
下(0〜2.12mm)TPU 95A40% ジャイロイド支える
上(2.12mm〜)TPU 85A30%足に当たる

あわせて、V2で気になった上面のインフィルを20%から30%に上げた。格子のザラつきは密度が低すぎたことが原因だと考えたからだ。

TPU95Aと85Aを積層したV3のPrusaSlicer表示

1台のプリンタで2種類の材料を使う方法

MMU(マルチマテリアルユニット)は使っていない。TPUをMMUで送ると詰まるトラブルが定番だからだ。

代わりに使ったのが、PrusaSlicerの「色替え(M600)」機能だ。

  1. PrusaSlicerでモデルをスライスする
  2. プレビュー画面の右側にあるレイヤースライダーで、切り替えたい高さへカーソルを合わせる
  3. 「+」ボタンで色替えを追加する(今回は Z=2.12mm、7層目)
  4. その位置で M600 が挿入され、印刷中にプリンタが一時停止する
  5. 停止したらフィラメントを手で交換し、再開する

つまり手動のマルチマテリアルだ。1回止まるだけなので、印刷に張り付いている必要はない。TPU同士は同系材料なので、層間の接着も問題なかった。

実際の印刷設定(コピペ用)

プリンタ    : Prusa MK4S
ノズル      : 0.6mm
層高        : 0.32mm
温度        : 205℃(ベッド1層目 50℃)
外壁(perimeters)  : 0
上面ソリッド層     : 0
インフィル  : 下=40% ジャイロイド / 上=30%
色替え(M600): Z=2.12mm(7層目)
総層数      : 25層/最高部 7.88mm
印刷時間    : 4時間8分41秒
使用量      : 45.72g
TPU95A支持層とTPU85A接触層の二層構造

外壁ゼロ・上面ソリッドゼロがポイントだ。インフィルがむき出しになるので通気性が保たれる。V2の「夏に快適」という長所をそのまま引き継いでいる。

結果:硬さは変わらないのに、当たりが変わった

出来上がったV3とV2を、フォースゲージで押し比べてみた。

結果は、ほとんど差がなかった。押し込んだときの反力は、感覚的にもほぼ同じだ。

(※手で押しているので押し込み量が揃わない。厳密な測定ではないことは断っておく)

ところが、履いた感じははっきり違った。気になっていた格子のザラつきが消えている。

これは考えてみれば当然だった。押し込んだときの反力は、下にある95A・40%の層が支配している。上の層を85Aに変えても、全体の硬さの数値は変わらない

変わったのは、足が直接触れる部分だけだ。そこが柔らかい85Aになり、密度も30%に上がったことで、格子の目が足裏に伝わらなくなった。

つまり、

体感を決めていたのは「硬さの数値」ではなく、「足に当たる面の材料と密度」だった。

市販のデュアルデンシティ・インソールが二層構造を採る理由が、作ってみて腑に落ちた。


V4:粘土で足型を取って3Dスキャンした

ここまで来ると欲が出る。

自分の足の形そのものに合わせたら、もっと良くなるのではないか。

100均の紙粘土で足型を取る

用意したのは、100円ショップの紙粘土2袋だけだ。

粘土を平らに広げ、ラップをかけた上から足を押しつける。ここで大事なのが半荷重で採型することだ。立って全体重をかけると足のアーチが潰れてしまい、「潰れた状態の形」が型に残ってしまう。椅子に座り、軽く体重をかける程度で押す。

紙粘土を使って半荷重で採型した足裏形状

3Dスキャンしてモデリング

固まった足型を3Dスキャナーでスキャンし、メッシュデータにする。

このメッシュをFusionに読み込むのだが、スキャンした形をそのまま使うわけではない。スキャンデータはノイズも多く、そのままインソールにできる品質ではないからだ。

参照用の下敷きとして配置し、その上で土踏まずの高さやかかとの落ち込みを見ながら、あらためて形を作り直していく。材料の構成(下=95A/上=85A)はV3と同じにして、形だけを変えた

結果:悪くはない。でもV3のほうがしっくり来た

正直に書くと、期待したほどではなかった

悪くはない。ただ、V3と履き比べると、V3のほうがしっくり来る。土踏まずの当たり方が微妙に強かったり弱かったりして、詰め切れていない感じが残った。

土踏まずの高さ、かかとカップの深さ、アーチのピーク位置 ── 調整できる箇所はまだたくさんある。詰めれば良くなりそうな手応えもある。

ただ、そこを追いかけ始めると終わりが無さそうだった

そこで、簡単に作れて効果もそこそこ出ているV3を、ひとまず完成形とすることにした。


4枚の比較まとめ

V1V2V3 ★採用V4
材料TPU95ATPU95A95A+85A95A+85A
インフィル40%均一40→30→20%下40%/上30%下40%/上30%
純正トレース同左同左足型スキャン
印刷時間4時間24分約4時間4時間8分約4時間
足の痛み出ない解消解消解消
足裏の感触硬い格子のザラつきザラつきなし良好
通気性
総合

同じものを作りたい人へ:再現の手順

  1. 純正インソールを抜いて撮影する(真上から、スケールになるものを一緒に写す)
  2. 輪郭をトレースして3Dモデル化する。厚みは5mm程度、土踏まずを盛り上げる
  3. スライサーは基本を外壁0・上下面のソリッド層0にして通気性を確保する。最初の2層だけ外壁2にして印刷性を確保する
  4. インフィルはジャイロイドを選ぶ(等方的で潰れ方が自然)
  5. 下側を40%、足が当たる上面を30%に設定する
  6. 材料を2種類使うなら、Z=2mm前後で色替え(M600)を追加する
  7. 印刷する。7層目で止まったら、95Aから85Aへ手で交換する

つまずきやすい点

  • TPUはMMUで送らない。詰まりの原因になる。手動交換が確実
  • 85Aは柔らかいぶん送りにくい。印刷速度は15〜20mm/s程度に落とす。事前乾燥も効く
  • 上面インフィルを20%まで落とすと、格子のザラつきが足裏に出る。30%が下限だと考えている
  • 全荷重で粘土を踏むとアーチが潰れる。足型を取るなら必ず半荷重で

注意:ここで紹介したのは私自身の一例です。足裏の痛みやしびれには、シューズ幅、クリート位置、神経の圧迫など複数の原因があります。強い症状や長引く症状がある場合は、自作インソールだけで対処せず、医療機関や専門家へ相談してください。


使った材料

今回使ったTPUは以下の2種類だ。どちらもMK4Sで問題なく印刷できている。

TPU 95A(下の層・支える側)
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TPU 85A(上の層・足に当たる側)
Siraya Tech Flex TPU
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85Aはかなり柔らかく、単体でインソールを作ると腰がなくなる。下に95Aの層があるからこそ活きる組み合わせだと感じている。


まとめ:完璧を目指すと終わりが無い

4枚作って分かったことを、あらためて整理しておく。

  1. 足の痛み自体は、インフィルの密度勾配(V2)で解決した
  2. 足裏の感触は、足に当たる面の材料と密度(V3)で決まった
  3. 形を完全にカスタムしても(V4)、劇的には変わらなかった

3Dプリンタでインソールを作ると聞くと、「自分の足を3Dスキャンして完全カスタム」というのが最も効果的に思える。実際、私もそう思って最後にそこへ辿り着いた。

しかし実際に効いたのは、もっと単純な材料と密度の組み合わせだった。

そしてもうひとつ。どこかで「完成」と決めないと、永遠に作り続けることになる。土踏まずの高さを0.5mm変えては刷り直す、という沼は確実に存在する。簡単に作れて効果もそこそこ出ているところで手を打つ、という判断も必要だと思う。

同じように足裏の痛みで悩んでいる人がいれば、試してみる価値はある。1枚あたり4時間・50g弱、材料費にすれば数百円だ。市販の高機能インソールを買う前に、一度作ってみてもいいのではないだろうか。


関連動画

4枚の試作は、ショート4本と長尺1本でも公開している。

ABOUT ME
つくはる
つくはる。地方在住のロードバイク乗り&3Dプリンタ愛好家。40歳手前からロードバイクに出会い、メタボ体型から脱却して以来ロードバイク歴15年以上。現在は「3Dフィット工房」の屋号で、3Dプリンタを使ったロードバイク関連オリジナル部品の設計・製造・販売を行っています。ブログでは実際に使った機材のレビューや自作パーツの開発ストーリー、副業・節約のリアルを等身大でお届けします。